それぞれに秋の穹
 



        Side SS



 この夏も昨夏に劣らず、結構な猛暑だったけれど、それがどうしたってくらいに夏季合宿で頑張ったから。九月に入っても残暑がキツイななんて、うんざり言ってる同じ学部の子たちの言葉に、
『…そっかな?』
 なんて、ついつい ひょこりと小首を傾げてしまってた。空が高くなってくるにつれ、朝晩随分と涼しくなったのがすぐにも判って。それと同時にいよいよ始まったのが、大学アメフトの秋のリーグ戦。週末はほとんど、どこかの競技場で各リーグの試合があって。自分たちが出場する試合は勿論のこと、上位リーグのゲームも見逃せずで、スカウティング(偵察)や資料集めも兼ねてのこと、練習をこなしてからとか、帰ってから合流って形での時間配分の下、主務だけでは全く足りない試合数をフォローするべく、部員たちが全員であちこちのスタジアムへと分散して飛ぶのだけれど。

  “うにゃ〜、早く来過ぎちゃったかなぁ。”

 競技場前という終点でバスから降りた瀬那は、パンフレットと携帯電話の時刻表示とを見比べて、スポーツキャップのつばの下で、ありゃりゃと眉を下げてしまった。その言動の苛烈さや周到さから、早速にも“鬼か悪魔か”と…新規加入の慣れのない部員たちからも恐れられてる、二回生主将の蛭魔さんは。何をどこまで判っていてか、もしかしてもしかしたらば…気を遣って下さってのことなのか。セナには“某有名大学チーム”の出場するゲームの観戦とスカウティングをばかり、主に担当させて下さっており。まま、リーグが2つも上の、すぐにも対戦できる相手でなし。それでさほどには切迫しなくてもいいという構えでいなさるのか、それとも。こんなささやかな形ででも、相手チームのエース格を揺さぶっておこう、先々で効果が出る“刷り込み”になるやもしれないという、気の長い魂胆があってのことなのか。
(こらこら) そんな作戦の関係上か、セナを独りで派遣することが多いのだけれど。単独行動ともなれば、一つ一つを確認し合う相手がいない訳だから、いきおい、こういう凡ミスもやりかねないということで。
“どっかで時間潰ししなきゃダメかな。”
 パンフレットに掲載されてるプログラムによれば、目的のゲームの開始時刻と記されているのは何と2時間もあと。どうやら、午後イチの試合を正午すぐ前のゲームだと勘違いしたままに行動していたセナであったらしく。アメフトの試合時間は、15分4クォーター制の“1時間”となってはいるが、ハドルやタイムアウトで時計が止まるし、前半と後半の狭間にある“ハーフタイム”の休憩も含めれば、実質は2時間近くかかるのが普通。当然、主催者の方々にしてもその程度の余裕をみての“時間割”にしていなさるので、1つ前のゲームに間に合うようにと来てしまったということは、きっちり2時間、時間が空いてしまったことになり。その事実を、すぐ傍らの案内板の看板にても噛みしめ直したセナくん。大学生とは思えない小さな手で、少しばかり強いめにパンフレットを握りしめる。そんなにも口惜しかったからではなくて、
「………。」
 不意に動きが止まってそのまま、
「…っくちん☆」
 小さな小さなクシャミが出てしまい、うう、しまったと、辺りをきょろきょろ。それから…両手で慌てて押さえた口許からそぉっと片手だけを離し、薄手のブルゾンのポケットをまさぐってハンカチを探す。スポーツや行楽のお出掛けなどなどで、体を動かしたり陽だまりにいたりすると、まだまだ汗ばむ気温だけれど。それでも…朝晩の涼しさ、気温の低下の案配は、日を追って着実に加速を増して降下しているみたいで。部活の練習の後だと、マシンガンの銃口つきで“絶対に体を冷やすな”という厳命が突きつけられるので、念入りに汗を拭ってから帰っているけれど、
“昨夜はお風呂上がりに薄着でいたからかな。”
 ついついのこととて、半袖のTシャツにジョギングパンツなんていう軽装のままでいて、面倒だったからとベッドにもぐり込む寸前までその恰好のままでいたもんだから。それでのクシャミなのかしらんと、そぉっと自分のおでこへ手のひらをあてがってみる。特に熱っぽいとか寒気がするとかいう不調は感じないものの、今朝からずっと、やたらとクシャミが出て止まらない。とはいえ、駅へと向かう人の中には、瀬那と同様にクシャミをする人も多くって。今日はなかなか勢いのある風が時折吹きゆくもんだから、そっちの“風”という悪戯者のせいでもあるのかなと、とりあえずの溜息をつき、さて。気を取り直した小さなランニングバッカーさん、周囲の人たちの流れに乗って、予定の会場へとりあえずは向かってみることにした模様です。





            ◇



 夏とは違って、どこか乾いた感触のする陽射しは、こちらも夏とは微妙に色合いを異にした青空を、仄かに透明なガラス越しにでも見ているような、高い高い存在へと追いやってしまうらしくって。ただでさえ広大なスタジアムだの、グラウンドだのが集まっている総合競技場の敷地内。緑の木立こそ多いけど、視界を遮る無粋な建造物の方はさしてないまま、空へぽっかりと広く開いた空間ばかりというこの風景は、見上げているだけでも随分と爽快。そんな中、
“………あ。”
 不意な風のような勢いで、早く早くと人込みの中を大急ぎで駆けてく一団があって。知り合いがいた訳でもないのにね、セナはついつい視線を向けてしまってる。ご贔屓のチームのそれなんだろう、バルーンバットを手に、お揃いのTシャツを来た男の子たちで、
“中学生? いや、高校生かなぁ。”
 他人様のことは言えないながら、背丈だけじゃなく雰囲気も、どこか幼い感じがしたので。大学生じゃなかろうと、何となくほのぼのと見送った。自分のような偵察がてらじゃなくの応援。そうまでしたい好きな選手がいるんだろうな、そうまでアメフトを知ってて、好きなんだなと。微笑ましいと思ったと同時、心のどこかで…羨ましいなとちょっぴり焼き餅。だって自分は相当出遅れたから。蛭魔さんから勧誘されて始めていなければ、もしかしたなら未だに関心の範疇外だったかもしれないもの。そして今は、3年でも遅れを取ったのが口惜しいなって心から感じてしまうほど、堪らなく大好きになったもの。何にも取り柄なんてないって決めつけて、出来るだけ目立たないようにって俯いて過ごしてたのにね。対等で仲良しな友達もいなくって、苛められたり仲間外れにされたりが怖くって、いつだっておどおどとしてばかりだったのにね。自分の中に眠ってた、アメフト向きの瞬発力とスピードを蛭魔さんに教えられ。誰にも怯まず、それどころか“負けるもんか”なんて大それたことまで思えるようになってた、新しい自分がすくすくと育って育って。

  「アイシールド21だろ?」

 ひゃあぁぁっ…っと。セナを反射的に飛び上がらせかけた声の主は、そんな彼の傍らをすたすたと追い抜いてった、やっぱり高校生くらいの男の子たち。
「確か…3部リーグだっけ? R大の“デビルバッツ”に入ったって。」
「馬っ鹿だよなぁ。いくら元・泥門の選手ばかり入学したからったってよ。」
「そうそう。推薦受ければ、もっと上のリーグんチームにだって楽勝で入れたんじゃねぇの?」
 きっと試験の成績で無理があったんだぜ? そかな、R大って結構レベルは高いぜ? じゃああれだ、卒業してからの潰しが利くようにってことを優先したんだ。小せぇな〜。
“…どうせ小さいですよ。”
 身長はねと、心の中にて律義にもノリツッコミもどきを返していたセナだった。こんな風に、見ず知らずの方々にまで取り沙汰されちゃう立場になろうとは。しかもしかも、飛びっきりの素晴らしい人とのご縁まで運んで来てくれようとは。
“やっぱ、アメフト万歳…なのかなぁ。////////
 そもそもはアメフトつながりで知り合えた人。全国規模にて、いやいや、なんと本場アメリカでも、高校生の時点で既にその名が轟いていた実力ある有名プレイヤーの、

  “………進清十郎さん。”

 王者と呼ばれながらも、神奈川の神龍寺には勝てないままだった王城ホワイトナイツの永年の切望を、一気に果たした“最強の世代”の中心人物であり。セナが…アメフトというスポーツを、まだどこか“脅されて”やっているという感覚が強かった筈が、

  ――― この人に勝ちたいと、

 畏れ多くも心から思ってしまい、そして。自分にもあるとは思わなかった“闘争心”を、一気に掘り起こしてくれた人。半端で曖昧な心根で相対しては失礼だと、こちらも真摯に構えねばと感じて…憧れた、本物のヒーロー的プレイヤー。此処にこうして集まったアメフトファンなら誰もが知っているほどの、そりゃあもうもう強くて凄くて、正面に立ち塞がったなら怖いくらいの人でもあって。寡黙で寡欲で、なのに、分厚い威容にあふれ、その存在感の重厚さとは裏腹に、動きの俊敏さは正に神槍の迎撃の如く、逃れ得ぬ疾風のように速くて鋭くて。
“高校生の時からもう、大人びた人だったから。”
 他の関係者たちが注目していたと同様に、セナもまた…こちらから意識していたこともあって、彼がどこにいても意識が向いたし、一旦、同じ空間に見つけたなら、そのまま眸が離せなくなった。それほどまでに意識し、気に留め、それから、あのね? ////////

  ――― ごすっ、と。

 何にか照れて、うにむにと。俯きかけた視線の先に…何かがあって、ついつい軽く蹴りかけた。あれれぇ? いつの間にやら、順路になってた石畳の通路から外れてたらしき、セナの足取りが辿り着いたものはというと。まだまだ夏の青さを十分に残した芝草の上、無造作に“置かれて”あった、

  「………進さんっっ?!」

 どこにいたってその重厚な存在感があるから見つけられちゃうそのお人が、まさかまさか、こんなところの芝の上に放置してあろうとは誰が思うだろうか。
“………いや、放置って。”
 それぞれの競技場まで利用者たちを誘
いざなうは、軽石やテラコッタの敷かれた石畳だが、そんな通路から少しほど離れた斜面の芝草の上へ。片手を腹の上へと乗せて、もう片方は無造作に脇に流し。自宅の居間ででもあるかのように、それはそれは堂々と横たわってる仁王様であり、

  “もしかして、寝てる…の?”

 試合前だってのに、まあまあなんて余裕なんだか。っていうか、
“大丈夫なのかなぁ。”
 試合に際しての体調の調整だとか集中
(コンセントレイト)だとかを考えたなら、2時間前ならそろそろ起きなくちゃいけないのではなかろうか。そうこう思いながら…頭の方のすぐ傍らへ、お膝を落として座ったセナだったのは。自分のささやかな背丈でも、その高さの分だけ離れてる進さんだというのが、何だか居たたまれなかったから。何も、彼より高みに立ってるなんて畏れ多くも不遜であるぞよ…とまでは思わない。でもだけど、こうまで近くにいるんだのに、身長差以上の距離があるのは、何だか…何だか。そんなの理不尽だとしか思えないのは、もっと間近い傍らにいたいって思ってしまうのは、きっと、

  “久し振りですものね。”

 お互いに忙しかったから、八月からこっちはろくすっぽ逢えないままだった。学校が始まる直前に一度、進さんが倒れたという報を受けた蛭魔さんが気を遣ってくれて、それで逢ったは逢ったのだけれど。
“あれは…あのその…。/////////
 進さんは臥せっていたんだし、お見舞いは例外ですようと、何故だか真っ赤になった韋駄天くん。九月に入ってもお互いの“合宿状態”は続いたから、そうそう自由には逢うことも出来ずだったし。メールのやりとりをしていたくらいで、それだってたまには滞った。そうである相手を責められるほどにこっちがマメだったかといえば、全然そんなことはなく。寝つくにも体力を振り絞らねばならないくらいに、毎日毎日大変だったもんだから。進さんだってお疲れだろしなんて、勝手に自分に言い訳をして、携帯自体に触れなかった日だってあったほど。でもね、ホントはね、凄っごく凄っごく、

  「………逢いたかったですよ?」

 よほどのこと深く眠っているのか、分厚い胸板がゆぅっくりと上がったり下がったりするのが、それ自体も何かの鍛練に見えるほど規則正しくて。白が基調のU大学のジャージに包まれた、がっつりした肩や、胸板やお腹やら。セナより大きな体躯の広いところへ秋の陽を受けていて、眺めているとそれが少し眩しいけれど。ずっとずっと逢いたかった人だからね。上体を倒してのこそっとした囁きで、内緒の告白を届けてみる。強くて真っ直ぐで、真っ白な人。目映いまでの潔白であり続けられる強さを、自身に守れと課すことへ、何の疑いも不安も持たず。こつこつと鍛練に精進し、明日へ連れてゆく自分とだけ向かい合っていた、心も体も強い人。その強さが時に、心弱い人を弾いて裁いて傷つけることにさえ気づかぬまま、神々しいまでに強くて強くて、ただ真っ白な人だったのに。

  ――― 知らなくてもよかったことへ、
       もしかしたらボクが寄り道をさせてしまった…のかも?

 広い広い敷地の中、幾つかあるスタジアムにはきっとたくさんの人が詰め掛けていて。中には進さんのファンだって、スタンドの一角を埋めるほど、駆けつけているに違いなく。なのに…不思議だ。そんな進さんとボクと。周囲の喧噪から切り離されて、こんなところで日向ぼっこしてるんだものね。不意に風が吹いて来て、ちょっぴりの砂ぼこりを運んで来た。咄嗟に目を瞑れば、

  ………ふわりと。

 優しい何かが頬へと触れて。眸を明けなくても…その正体はすぐに判ったセナくんで。


   「こんなところで何をしてるんですか? 進さん。」
   「寝ていた。」
   「風邪をひいてしまいますよ? 地面は冷たいでしょうに。」
   「気持ちが高ぶっていたのでな。存外、気持ちがいい。」


 けれど、お前は真似をするな? え〜、どうしてですか? 体を冷やして風邪をひくからだ。そんなの変な理屈ですよう、体脂肪だったら進さんの方が少ないくらいでしょうに。むくりと起き上がれば、たちまち見上げる位置へと首の角度を変えねばならないだろうほど、大きくて頼もしい進さんは。だが…どうしてだか、しばらくほど そのまま横になっており。慣れのない人には判りにくかろうほど微かに、その凛々しい目許を和ませるものだから、

  「? どうしましたか?」
  「いや…。小早川を見上げるというのは、
   なかなか出来ることではないなと思ってな。」

 あ、ひっどーい。小さな手を“ぐう”にしてセナが振り上げれば、どこでも叩いてごらんなと、動じないどころか胸へと置いてた手まで退けちゃうお茶目をして見せる進さんなのへ。叩く代わりに、もっと効果のあるお仕置きをしたセナくんだったそうですよ? 何をしたのかは…皆様のご想像にお任せということで。ヒントは、今日の対戦相手が気の毒だなあということで。
(笑)












        Side HY



 秋と言えば、気候がよくなっての行楽も多いし、実りの秋の収穫を祝っての行事も多い。それからそれから今時の話題。秋と言えばテレビの世界では番組改編がたけなわで、しかもこの時期はどこの局でも制作会社でも、自信の入魂作を並べてくるもの。3カ月13話の1クールだとして年末に最終回を迎える計算になるがため、主演にはイケメンとマドンナを並べるわ、主題歌にはレコード大賞狙いのメジャーな歌姫やら話題のユニットを持って来るわと、そりゃあもうもう気張るのだそうだが、
『僕はそういうのにはまだまだお呼びじゃないからね。』
 あははと笑ったお気楽なアイドルさんは、それでも“秋の特選企画”たらいう2時間ドラマで主役を張ったそうで。お陰様で夏は忙しかったったらと、肩をすくめて…そのまま沈没して下さった。
「……………。」
 せっかく久し振りに逢う時間が作れたのによ、メールじゃ二言目には“逢いたい・逢いたい”って連呼してやがったくせによ。自分で淹れたコーヒーの香りを堪能するのもそこそこに、思わせ振りにひょいと抱えて、ベッドルームまで運びやがって。相変わらずに胸糞悪くなるほど、広くてデカイ胸板してやがって。間近になってたおとがいの下、すっきり引き締まってた喉元が、妙に男臭くなってやがって。長くて頼もしい腕で、包み込むように抱きしめてのキス…と運べば。その後、どう流れるかってくらいは、その…なんだ。頭では思い出せずとも、体がちゃんと覚えていたのに。

  ………たったキス1つで、あっさりと撃沈しやがってっ。

 まるで毒リンゴを食べてしまった白雪姫のように。それは静かに ぱったり…と。掛け布団の上へ倒れ込んでしまった亜麻色の髪の恋人さんは、腹立ち紛れに開いたPCでハック紛いの検索をしたところ、この夏はほとんど移動で潰していたらしく。高原と海辺での来年度のカレンダー撮影に、都内のスタジオでの秋の単発ドラマへの出演。それと並行させての、大学でのアメフトの合宿という、そりゃあもうもうハード極まりない“掛け持ち生活”を、一カ月以上も送っていたらしい。

  “………馬〜鹿。”

 何だよお前、俺のこと言えねぇじゃんかよ。自分のコンディションやプレイを磨くだけじゃなく。試合になれば監督もこなすし、主務の仕事やコーチの仕事まで、全部を独りでやってたの、さんざん“やり過ぎだ”なんて言ってたくせによ。お前の方がキツイこと、さんざ やってたんじゃんかよ。俳優やんのが楽しくなって来たってのは前に聞いたけど、何でそんな、アメフトにまでこだわってやがんだよ。

  “体。壊したら…どうすんだよ。”

 頭を向こうへではなく、自分の背中側にこっちへ倒れ込んだ相手を、こちらは座ったままでしばらく見下ろしていたのだが。昼下がりの仄明るさの中に晒された、一向に起きそうにない無心な横顔を、もう少し間近に見たくなり。少しだけ空いてた空間へ、まるで海へでも泳ぎ出すかのように、その痩躯を滑らせながら自分も横になった蛭魔であり。
「……………。」
 こんな間近に近づいても、ベッドが結構たわんだのにも、全然目覚める気配はなくて。頬へとこぼれてた長いめの髪をそぉっと後ろへと払ってやると、少しだけ俯き気味のお顔を、間近からまじまじと堪能させていただいた。彫の深いお顔は相変わらずに、どこかの名のある青年神の塑像のように整っており、ますますのこと大人びて来て、男らしい精悍さをも増したようにも見えるほど。真っ直ぐ天井を向いてはいないので、斜めに立った肩が…古い屋敷の玄関にあるような、頑丈そうな千年杉などの一枚板の衝立みたいな厚さと存在感を、視覚効果だけにて発揮している頼もしさ。
“でけぇよなぁ。”
 初めて逢った時から既に、自分よりも上背があった桜庭であり。王城での二年の夏には、何を一念発起したやら、ますます鍛えて雄々しくなって、男ぶりをめきめきと上げた。そして…まさかまさかのサプライズ。女性ファンには困っていない、アドニスのような貴公子のような、誰が見たって申し分のなかった男ぶりの美丈夫さんたら。選りにも選って金髪痩躯の人非人。誰もが恐れる“人外レベル”の悪魔さんに懸想したから…誰が驚いたって、惚れられた蛭魔本人が、一番戸惑ったし困惑もしたらしく。冗談はよせとどんなにすげなく振り払っても、突っ慳貪に応対しても、全然懲りずに付いて回り。執念とも思えそうなほどに根気の続いたアタックの成果は…まさかまさかでアイドルさんの粘り腰に軍配が上がったから、美人の一念、岩をも通す?
“…おいおい。”
 筆者のはしゃぎようへと呆れつつ、悪魔さんの視線は…久々に凝視出来た桜庭王子のお顔から離れない。問題の単発ドラマ、共演者は何と…目許を潤ませてでないと人とは喋れんのかと同性からは激しくバッシングされまくりの、恋多き女優であり。何に出ようと必ず熱愛報道が付いて回り、主演の男優との仲を噂されては“魔性の女”とか“共演者キラー”とか言われてる。確かに美人ではあるけれど、そうやってお仕事以外で名を挙げてるのも、本人が納得しての戦略ならば、見上げたもんだと言ってやりたいくらいだけれど。
“こいつんだけは近づくなってんだよな。”
 はっきり言って、アメフトに関係ないなら、どこで誰が何をしていようが関心はない。誰が結婚しようが誰が失恋しようが、誰が事故ってコケようが、誰が神秘の奇跡に恩恵受けての運のよさを欲しいままにしようが、知ったことかで方
(カタ)がついていたのにな。眠れる森の王子様の、それはそれは穏やかな寝息を聞きながら。独りぼっちで置いてけぼりなのさえ許してやってる寛大さを見せつつも…噂の相手へは倍加されたる怨恨の念をば、激しく感じているらしき、困った悪魔さんであり。


  ――― いっそこのまま、此処で軟禁でもしてやろうか。


 こらこらこらこら。あんたならそれが楽勝で可能かもしんないから恐ろしいったら。(ぶるぶるぶる…)美しい青年を眠りの檻に閉じ込めた女神様みたいに、ちょっぴりと悩ましげなお顔になって。撓やかな指、そぉっと伸ばすと、今にも薄く開きそうに合わさった口許を、触れるか触れないか、そんな軽さにて擽ってみる。そして、


   「………狸寝入りならとっとと起きな。」
   「ぐうぐうぐう。」
   「夜んなったら、ちゃんと寝かしてやっから。」
   「だから。…どうしてほしいの?」
   「…余裕じゃねえかよ。////////
   「とんでもないないvv
    どの間合いで襲いかかろうかって、
    そりゃあもう、ドキドキしてたんだからねvv


 下手に実行していたら、お前、蜂の巣になってたぞ? それも心得ておりますよう、枕の下でしょ? ベレッタの2発装填。ベッドの下にもコルトを置いてる。あ〜〜〜っ、いつの間に増やしたんだよう。出しっ放しは埃をつけるからとか何とか、言ってたくせに。知らねぇよ、そんな昔の話なんて。………睦まじいんだか物騒なんだか。何とも奇妙な睦言の狭間に、小さく微かに響くは…お互いの唇を啄む音か。秋の空の澄んだ色合いも、今だけは関心の外に追いやられてしまってる。も一度眠くなる前に、あっさり着火しそうな雰囲気のお二人さんだったそうですよvv






  〜Fine〜  05.9.22.〜9.26.


  *作中、王城が神龍寺に勝ったように描写しておりますが、
   やっぱり“関東大会・決勝”は“泥門 VS 王城”でやってほしいから、
   ならば、準決勝は“泥門 VS 西部”と“王城 VS 神龍寺”ではなかろうかと。
   そいで、クリスマスボウルで謎の“本物アイシールド21”と対戦してくれたら、
   色々と嬉しいんですけれどvv
   ………そうそう簡単な話じゃあないんでしょうね、きっと。 


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